SOSの猿 伊坂幸太郎

 解説にも記載されていたが、ここら辺の作品は「伊坂幸太郎の第2期」というものらしい。よくある「売れたアーティストが自分の趣味を前面に押し出し始めた」という第2期だ。結局は独りよがりな結果となり、つまらないところに着地するというオチが大抵なのだが、伊坂氏もこれに当てはまってしまった。正に悲劇である。
 エンタメ小説の世界では無敵の強さを誇っていた伊坂氏なのだが、なぜか純文学テイストを強めていく。実際のところ「魔王」でその兆候はあったのだが、「あるキング」で解放されてしまったようだ。本作「SOSの猿」も同じで、分かったようで分からない、意味のあるようで意味のない、そんな生温い作品になっている。西遊記に絡めてストーリーが進んでいくんだけれど、僕は孫悟空がでてくることにユーモアも意味も見いだせなかったので、あまり面白くなかった。単純に作品との波長が合わなかったんだと思う。
 あと、伊坂氏はキャラクターの台詞回しとストーリー展開が面白い作家なので、純文学は圧倒的に不向きだと感じる。純文学のカテゴリにいる作家って、ストーリーはクソなことが多いけど、文章自体が本当に面白い人が多い。向き不向きはどこにでも存在するってことで。

SOSの猿 (中公文庫)

SOSの猿 (中公文庫)

 33冊目。