光媒の花 道尾秀介

 道尾秀介の文庫最新刊。第23回山本周五郎賞受賞作。
 読んでみての感想なんだけど、道尾氏ってこんなに文章がうまかったっけ?、と思ってしまった。ひたすらに文体が綺麗で淀みないのである。今のところ「鬼の跫音」に収録されている「冬の鬼」が個人的な氏のベストなんだけれど、それに勝るとも劣らないと思う。何よりタイトルが良い。
 全6編で構成され、前3編が陰鬱で救いようがない話、後3編が仄かに暖かい救われる話となっている。また、登場人物同士がバトンを渡すようにストーリー間でリンクしていく構成も特徴だ。ストーリーが影から光に移り変わっていく様と、読んでいる自分自身の気持ちが微妙に重なりあっていき、読後は何とも言えない気分になれる。
 正直設定にリアリティはないし、構成も作為めいてはいるんだけれど、そんなことは小説なんだから当たり前。一種のアートと思えばよし。それだけ美しく素晴らしい。道尾氏一番の傑作。
 12月発売予定の文庫版「球体の蛇」も期待。

光媒の花 (集英社文庫)

光媒の花 (集英社文庫)

 32冊目。